サラワクの朝食

一日の始まりは町の食堂コピティアムへ

朝食をどこで食べるかは、その旅の印象を大きく左右する。

ホテルの豪華な朝食ビュッフェで済ませるのも悪くない。しかし今回のクチン滞在6泊中は、一度もホテルの朝食ブッフェを使わなかった。サラワク政府観光局のハイディとアマンダ、日本語ガイドのアレックスたちが、「今日はここへ行きましょう」と地元の人で賑わうコピティアムへ連れて行ってくれたからだ。それらは全くもって旅行者向けではなく、自分たちが普段利用している店ばかりだった。

サラワクの朝食文化を語るうえで欠かせないのが、コピティアムだ。「コピ」はコーヒー、「ティアム」は店という意味で、もともとは中国系移民が営む喫茶店を指す言葉である。しかし、日本の喫茶店とは異なり、ドアや扉などない開けっぴろげの建物の中に、麺屋、飲み物屋、トースト屋、点心屋などが入り、それぞれが専門店として営業している。

ラクサを食べる人の隣ではコロミーを混ぜている人がいて、その向かいではチャークイティアオを頬張る家族がいる。飲み物は飲み物専門店で注文する。まるで小さなフードコートのようだが、それが町中のあちこちにあり、朝早くから活気に満ちている。

毎朝、8時前にお店に着くと、どこもほぼ満席だった。仕事へ向かう会社員、学校へ向かう学生、新聞を読む老人、小さな子どもを連れた家族。湯気の立つ麺をすすりながら、それぞれの一日が始まっていく。

朝食の種類の多さにワクワク

サラワクの朝食で驚いたのは、料理の種類の多さだった。日本なら、ご飯に味噌汁か、またはパンとコーヒーという家庭が多いだろう。ところがサラワクでは、一軒のコピティアムの中だけでも実にさまざまな料理が並ぶ。すぐに思い浮かぶものをいくつか挙げてみよう。

  • サラワク・ラクサ
  • コロミー
  • ミーサテ
  • ミートマト
  • ポークヌードルスープ
  • クエチャップ
  • フィッシュビーフン
  • チャークイティアオ    (炒め平米麺)
  • チャイトークウェイ
  • カヤトースト
  • 雷茶
  • アイスミルクティー

一週間滞在しても毎朝違うものが食べられるほどだ。

ラクサ

サラワクを代表する朝食といえば、マレーシアのラーメンにあたるラクサだ。日本でもラーメンは土地によってスープの色や具材、麺まで変わるように、ラクサは場所によって味も香りも色も見た目も異なる。サラワク・ラクサは発酵エビペースト「ブラチャン」をベースにしたスープにココナッツミルクとサラワク名物の黒胡椒が加わり、スープは暗褐色。麺は細いビーフンで、イスラーム教徒のマレー人も食べられるように、具材は茹でたエビ、錦糸卵、もやしなど。

日本ではシンガポール・ラクサが有名だが、サラワクのラクサは更に濃厚でスパイシーだ。それでいて、重たさはなく、朝でも自然に食べられる。アメリカ人シェフ、料理研究家のアンソニー・ボーディンはそんなサラワク・ラクサを「神の朝食」と呼んだ。

コロミー

ラクサと人気を二分するのがコロミー。細い卵麺をラードや醤油ベースのタレで和え、豚チャーシューや青菜などをのせた汁なし麺だ。白い麺に、周りを食紅に染めたシャーチューの赤、トッピングの青ネギの緑が美しい。豚出汁の透明スープが別の器で付いてくる。見た目はとてもシンプルだが、そのぶん毎日でも食べ飽きない。マレー系のお店のコロミーは豚チャーシューの代わりに牛ひき肉がのせられている。

今回は竹墨を混ぜ込んだ黒い麺、ほうれん草を混ぜ込んだ緑の麺のコロミーをいただいた。

カヤトースト

麺ばかりではない。軽めの朝食ならカヤトーストも人気だ。ココナッツミルクと卵、砂糖、パンダンリーフで作るカヤジャムを、イギリス式の薄切りの食パンのトーストにはさみ、厚切りのバターを加える。同時に温泉卵を頼み、醤油と白胡椒をたっぷりかけて、卵を崩し、それをカヤトーストにつけながら食べるのもこの地域ならではの楽しみ方である。コーヒーやラクサやスープに漬けて食べるのも行儀悪いことはないそうだ。

ポークヌードルスープ

名前の通り、豚骨を長時間煮込んだ澄んだスープに麺を入れたシンプルな汁麺。スープは透明感があり、見た目はあっさりしているが、豚骨や豚肉からじっくり引き出された旨味が深い。ビーフンをスープに入れたものと、麺を別皿で提供するものをいただいた。別皿の麺は平打ちのビーフンで甘辛いタレで味付けされていた。トッピングは豚ひき肉を丸めたミートボール、薄切りの豚肉、チャーシュー、レバーや腸などのモツ、揚げラード、青菜、ネギなど。店によってかなり異なり、自分好みの組み合わせを注文できる。

クエチャップ

幅広の米粉麺を、八角などの香辛料が香る濃口醤油スープで味わう福建・潮州系の麺料理。豚バラ肉や豚皮、モツ、揚げ豆腐など具だくさんで、見た目以上に優しい味わいが魅力。

フィッシュビーフン

白身魚の切り身を香ばしく揚げ、澄んだスープとビーフンに合わせた麺料理。食べているうちに、揚げた魚の香ばしさがスープに少しずつ溶け込む。

チャイ・トー・クウェイ

大根と米粉で作った餅を角切りにし、卵やニンニク、菜脯(塩漬け干し大根)とともに香ばしく炒めた福建・潮州系の定番料理。日本では点心として知られる大根餅も、サラワクでは一皿で楽しむ朝食になる。

雷茶

客家料理のお茶漬けにあたる、雷茶も朝食料理だ。日本では『雷茶』と表記されることも多いが、本来は『擂茶』と書く。『擂』とは、すり鉢で茶葉や豆、胡麻などを擂り潰すことを意味する。「茶」はその名の通り茶葉を意味する。

もともとは中国南部の客家の人々が山仕事や農作業の合間に食べていた栄養食で、茶葉に加え、ごま、ピーナッツ、炒った大豆や緑豆、ゴマ、時にはミントやバジルのような香草などをすり鉢で丁寧に擂り合わせ、そこへ熱湯を注いでスープ状にする。その擂茶をご飯にかけ、細かく刻んだ青菜や豆、落花生、揚げ大豆、豆腐、漬物など十種類近い具材を混ぜながら食べる。茶のほのかな渋みと香ばしいナッツ、青菜の爽やかな香り、それぞれの食感が一体となり、滋味深い。肉を使っていないにもかかわらず満足感があり、食後は体の中がすっと整うような感覚が残る。

ミーサテ

ミーサテは、名前だけ聞くとサテの串焼きが載った麺を想像してしまう。しかし実際は黄色い中華麺に、サテのタレを思わせる甘辛いピーナッツソースをたっぷりとかかっている。香ばしいナッツのコクにレモングラスやスパイスが香り、中華麺なのにどこかマレー料理を食べているような気分になる。一皿の中で中国系とマレー系の食文化が自然に混ざり合っているところが、いかにもサラワクらしい。知る人ぞ知るクチンの朝ごはんだ。

甘いアイスミルクティー

コピティアムという名前から、最初はコーヒーを飲むのかと思っていた。ところが実際には僕が何度も注文したのは冷たいミルクティーだった。グラスいっぱいの氷に濃く淹れた紅茶を注ぎ、エバミルクやコンデンスミルクを加えた「テ・アイス(Teh Ais)」。テ・アイスの特別版が「スリー・レイヤー・ティー(Three Layer Tea、マレー語ではTeh C Peng Special)」だ。名前の通り、グラスの下から、黒糖シロップ、ミルク、紅茶の三層に分かれた見た目も美しいミルクティーで、よく混ぜて飲むと濃厚な甘さと紅茶の香りが口いっぱいに広がる。日本では「朝からこんなに甘いものを?」と思うかもしれない。赤道直下の熱帯雨林に囲まれたサラワクでは、甘く冷たい一杯が不思議と体に染みわたる。旅の後半になるころには、この冷たいミルクティーを1日に3~4杯も飲んでいた。

朝食から始まるサラワク

湯気の立つラクサ。黙々と麺をすすって仕事へ向かう人。チャークイティアオを囲む家族。コーヒーを飲みながら新聞を読む老人。

毎朝通ったコピティアムの風景。そこには、その土地の暮らしや歴史、多民族社会の姿が凝縮されている。サラワクを旅するなら、宿の朝食は抜いて、町のコピティアムを訪ねてほしい。


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