旅行記
Travelog
インド旅行記・ラジャスタン編 3〜アンベール
ラージャスタン州の州都ジャイプールは人口100万以上の大都市だが、この街の路上ではありとあらゆるモノが行き交っている。車、バイク、サイクルリキシャにオートリキシャ、に牛、ラクダ、犬、豚、山羊、馬、ロバ、それに人。昔ながらの乗り物と近代の乗り物がごっちゃごちゃに入り乱れている。ジャイプール市内から11キロ離れたアンベールまで行くとこれに象まで加わるのだった。アンベールの山の中腹にはマハラジャが建てた巨大な宮殿アンベール城あり、入り口から城内まで象のタクシーで登れることで有名だ。バスでアンベールに向かう途中からすでにちらほら象の姿が見え始める。もはや観光用にしか存在しないのかと思いきや、象は背中と鼻に荷物を載せ、今だ生活の中に溶け込んでいる様子。それにしてもでかい割には、運べる量は少なそう。ハミッドによると朝は象の渋滞で車が通れなくなると言っていた。こういう大都市で、これだけたくさんの動物がうろうろしてる街って、世界でもあんまりないんじゃないかと思う。
ハミッドの家はアンベールの町はずれにあり、周りには畑と数軒の家、目の前の小山のてっぺんにはシヴァ神をまつるヒンドゥー寺院が見える。とても静かな環境だ。しかし一見辺鄙な所だが、実はデリーへ向かう高速道路が近くを走っており、ツアーのためにバスで移動する際には市内よりも便利だという。ハミッド家ははフランス人の奥さんマリーノエルと娘と息子の4人家族。家の奥にオフィスがあって、パソコンも揃えてあり、事務仕事をするスタッフが3人ほど通ってきている。ハミッドは夏の間は海外公演、冬はミュージシャン探しであちこち出かけてあまり家にはいないらしく、マリーノエルが細かなビザの申請や、メンバーの面倒などのマネジメント業務を切り盛りしているように見えた。ブルターニュ生まれのマリーノエルは北国の人らしい穏やかな佇まいなのだが、めちゃくちゃ良く喋る。おしゃべりなフランス人がインド化してテンションアップしてるのかしら。対するハミッドも思いついたことを一方的にだーっと喋る感じの人で、サラームのジャパニーズ英語がイマイチ通じていないらしく、質問しても別な答えが返ってきて、意思の疎通ができてるようなできないような。とはいえ、我々は5日の滞在中、観光もせずに、ほとんど彼らの家におじゃまさせてもらった。本当にお世話になった。しかも、毎日のように音楽を聴くことができた。
例えば、ある日家に伺うと、すでにムサフィールのメンバーが集まっていて、身支度をしている。裏庭に牛糞で塗り固めた小さな建物(牛糞の壁は夏涼しく冬暖かいのだそうだ)が建っていてそこが彼らの練習(兼宿泊?)場所になっている。そうこうしているうちに演奏が始まってしまった。インドのいいところはビデオもカメラもフリーというか、嫌がる人がほとんどいなく、むしろ張り切ってくれることだ。ハミッドも「インド人はヨーロッパ人と違うからどんどん写真撮っていいぞ」と言うので、遠慮ななく、ばしばし写真を撮り、ビデオを回していると、ハミッドが丘を登った方がもっと綺麗な映像が録れると、言い出す。そこで我々はミュージシャンと一緒に丘に登り、眺めの良さそうなところでわざわざ演奏をしてもらう。戻ってくると、今度は部屋の中でみんなで演奏するからと言う、今度はダンサーまで出てくる。結局暗くなるまで、たっぷり演奏が続く。
一体これはたまたま私達が彼らのリハーサルに立ち会えたのか、わざわざ我々のために呼んでくれたのかということはイマイチよく分からない。きっと半分たまたまで、半分わざわざだったのだろう。滞在中ずっとこんな感じなのだ。ハミッドがどんどん事を進めてゆくので、我々は質問する余地がないのだった。ハミッドは自分の仕事は半分ボランティアみたいなものだと言う。優秀だけど、収入少ないミュージシャンを海外公演に連れてゆくことで、ミュージシャンの生活を安定させ、ラージャスタンの文化を保護することができる、と。
音楽もさることながら、この家でランチをご馳走なるのも私の秘かな楽しみだった。インドに来て10日くらいから私の胃腸は不調をきたしはじめ、大事には至らないまでも、ぐずぐずと調子が悪いままだった。(結局最後まで直らず)お腹に優しくかつおいしい食べ物がないというのがインド旅のつらいところ。お腹に優しければ、ぱさぱさのトーストや、化学調味料だらけの野菜スープやヌードルを食べなければならず、美味さを追求すると、スパイスと油が容赦なく胃を攻撃する。そんな中でこの家のランチはお腹に優しくかつうまい、涙ものだった。メニューはダルにサブジとチャパティ、サラダ、食後に自家製ヨーグルトといういたってシンプルなものだが、奥さんがフランス人だけに辛さと油は控えめなのに、コクあって、いくらでも食べられそう。塩をかけただけのラディッシュ(フランスから持ってきたとのこと)も生野菜不足だったのでう、うまいです!庭にテーブルを出して、静けさの中、鳥のさえずりを聞きつつ食べるというシチュエーションも相まって、今回の旅で一番幸せな食事だった。以前はどんなご飯も美味しく食べられるのが自慢で、油でも肉でもスパイスでもどんとこい、だったのに、年取るってイヤだなあ・・。
と言うわけで、ジャイプールでは何から何までハミッドの世話になってしまった私達。多分彼らの音楽が日本で少しでも沢山の人に伝わることが、ささやかな恩返しになると思うので興味のある方はこのサイトを覗いて見て下さい。http://www.musafirmusic.com/