旅行記
Travelog
インド旅行記・カルカッタ編 4 憔悴のカルカッタ
コンサートのシーズンとはいえ、カルカッタではチェンナイの古典音楽祭のように毎日朝から晩までまとまったコンサートがある訳ではなかった。次の大きい公演は16日にちょっと、17日のザキール・フセイン、湯沢さんの師匠のレッスン見学が18日。それまでは特に何もなし。観光といっても特に見るべきところもなく、ちょっと歩くだけでものすご〜く疲れるカルカッタでいきなり私たちは暇を持て余してしまったのである。仕方ないから映画ばっかり見てたけど。それにしても噂通りカルカッタはやっぱりしんどい街だった。滞在数日にしてすでに疲れてきた。素晴らしい音楽を聴いた瞬間は、来て良かったと思ったけど、この空気の悪いくすんだ街の中にいるとその瞬間もはるか彼方に忘れてしまう。なんでこんなとこに来たんだという、疑問がじわじわと押し寄せてくる。
南インドのようにおおらかな明るさや、心休まる緑がどこにもないのである。肺にじっとりホコリが溜まるような空気。2〜3時間外出しているだけで鼻の穴真っ黒、爪の間も黒ずんでいる。ねっとりとした湿度があって部屋の中も衣服も、いつもべしょっと冷たいし、(それでもこの時期は一番過ごしやすい時期なのだ)おまけに通りに面した私たちの部屋はほぼ24時間うるさい。そこに追い打ちをかけるように、ご飯がまずいというのが致命的なのだった。朝からインド飯を食べるのをあきらめた私たちは、仕方なくトーストを注文するも、出てくるのはぺらぺらかさかさの(時に黒こげ)のブツに毒々しいほど赤いジャムが添えられている。オムレツはたいてい塩辛いか味がないかのどちらか。食堂でカレーを頼んでもこってりしていて油っぽく、まあまずくはない物もあるがのだが、一度食べれば数日は要らない、という代物。逃げ場になるかとブリヤニ(カレーの混ぜご飯)を食べてみたけど、無意味に黄色く、辛いだけで味わいもクソもない。しかし人間不本意にまずいものを胃に入れ続けると、ものすごく消耗し同時にやり場のない怒りが込み上げてくるのだ。
旅の何に充実感を感じるかは人それぞれだろうけど、私はうまい物を食べることが重要なポイントになっているので、どんなにつまらない街でも、ご飯がうまければまあ我慢できる。でも、その日食べたすべての物が胃に一つも充実感を与えてくれないと、何のために、高い金を払ってここにいるのかと不条理な気持ちでいっぱいになる。
滞在3日目私たちは、早々とカレーに敗北宣言しガイドブックにチベットモモ(餃子)のおいしい店と紹介されたレストランへ逃げ込んだのであった。初日に湯沢さんとショッピングセンターに行った際一緒に来た彼の友達が「この先においしいモモの店があるんですよ」と言っていたのだが、当時は「インドに来たんだからモモは要らない、カレーを食うんだ!」と心の中で意気がっていた私。いかに愚かだったことか。モモを食べた帰り際、ショッピングセンターに再び寄り、こジャレたお菓子屋で一個30rpもするクッキーを3つ買い、50rpのスイスチョコを2枚買い、さらにインド版スタバともいうべきバリスタで一杯40rpもするカプチーノを飲んで和んでしまった。あ〜いきなり負けてるな北インドに。それにいくら和んだって、本当はどの国に行っても必ずあるようなグローバル化した店に入って、クッキーやカプチーノに高い金払いたくないんだよ〜!とすっかり憔悴し、すでに夫の目は落ちくぼんでしょぼしょぼしているし、気がつくと私は目の下に隈が......。これって空気のせい?二人ともイライラし、つまらないことで喧嘩するという最悪な状態に。
ある日、ニューマーケットの大衆食堂に入ると、日本人のカップルが座っていてものすご〜いしけた顔でご飯を食べていた。喧嘩でもしてるのかな〜なんて思ってたけど。食事を待っているうちに、私たちもつまらぬことで言い合いになり、食べる頃には二人ともむっつり。件のカップルと同じ顔になっていたのだった。やっぱ北インド、疲れるよ。南インドは別の国だったみたい。