旅行記
Travelog

インド旅行記・カルカッタ編 3 古典音楽フルコース

 年始年末のインドはコンサートシーズンである。海外で活動しているミュージシャンが里帰り公演をするので、大都市のあちこちで大物ミュージシャンの公演が頻繁に行われる。もちろん私たちもそれを目指してやってきた。早速、着いて早々の12日に大規模な古典のコンサートに出会えた。 スワミ・ヴェーヴェカナンダ(インドの有名な聖人)生誕記念の音楽祭。今日のコンサートは午前、午後、夜の3部構成になっていて、いずれもチケットは各部それぞれ100rp(250円)、時間も4時間づつとたっぷり堪能コースである。しかしインドのコンサートって日本みたいに1時間半とかで終わらないのがすごいというか、インドらしいと言うか。何しろ1曲で1時間以上やるんだから。
 午前の部ではRahul Sharma(サントゥール)とYogesh Samsi(タブラ)のセッションが素晴らしかった。このタブラ奏者は故アララカ(ザキールの父)の弟子ということで、キレのいいスピード感あるグルーヴで音の中にどんどん入り込んでしまう。色白の王子様のようなRahul Sharmaはうっとりとした面持ちでサントゥールを弾く、この人絶対おばさまファン多そうだなあ、リチャード・クレイダーマンみたいと思ったら、なんと彼とコラボしている作品が出ているんだとさ。
 拍手喝采の彼らのセッションに続いた、やや地味目なヴォーカリストにしても十分味わい深く、こういう音楽を聴くと、いくらホコリっぽくても汚くても、わざわざインドに来て良かったなと思う。しかしインド古典については全く無知の私がこうまで、この音楽が好きになってしまったのか自分でもよくわからないのだが、まあ他の好きな音楽と一緒で「気持ちいいから」の一言でいいのだけど。でも、その気持ちよさは、他のどの音楽とも違っていて、一つの作品をはじめから終わりまで聴くという感じではなく、流れに身を任せてる感覚、例えば列車のリズミカルな揺れを感じながら車窓の美しい風景をぼんやり眺めている、ぼーっと考え事をしているときもあれば、その風光明媚さに興奮したり、そういうことを繰り返しながら、気がつくと数時間経っていたという感じに近い。私のは他のどの音楽もこんなに長い間聴き続けることはできないと思う。もちろんラーガやターラを理解していればもっともっと深く聴き込むことができるだろうけれど。ただ音が流れて、広がってゆくさまに身を任せているだけでも、十分にスリリングな体験ができるのだ。


音楽祭のぼり


 昼休みをはさんで、午後の部が続く。この部の目玉はImrat Khan(シタール)とAnindo Chatterjee(タブラ)のセッション。しかしアーラープ(リズムの入らない部分)が延々40分以上も続き、シタールの倍音ですっかり眠りに引き込まれてしまう。タブラが入ってようやく目覚めたが、う〜ん渋い演奏だったな。と思いきや、周りは感動の嵐。かなり泣かせる技が満載だったらしい。さすがに理論が分からないと、ある部分までしか入っていけないんだなあ。でもあまりに深く入ってしまうと、今度はインド古典から抜けられなくなってしまいそう。それでは物見遊山的な気軽な音楽の旅ではなくなってしまうので、それも困る。無責任な今の感じでいいのかなあ。
 午後の部が終わるともうすっかり日が暮れている。湯沢さんの師匠のソロライブが別の場所であるというので、会場を移る。途中、湯沢さんが「カルカッタのB級スナック食べません?」と言う。「怪しいけどくせになるんですよこれが〜」とのこと。一体何が出てくるのかこわごわついてゆくと、それはプチカというものだった。一口サイズの、丸くてぱりっとしたシュー皮状の物の中に、ジャガイモのペーストを詰め、それを甘辛いタレの中にさっとくぐらせて、コリアンダーを散らす。それを葉っぱを組み合わせて作った手のひらサイズの皿の上に乗せてくれる。一口でそれを食べると、お兄ちゃんがまた新しいのを作って乗せてくれる、そうやって気が済むまで食べるという仕組み。タレも2種類あって、トッピングもいくつかあり、組み合わせで何種類かの味を楽しめるようになっているらしい。食べてみると、皮のぱりっとした食感と甘辛いタレの組み合わせがけっこうあとを引く味でうまい。なんとも駄菓子テイストの食べ物である。スナック菓子好きの私はけっこう気に入ってしまった。お兄ちゃんが、素手でタレにつけ込む姿が気になる所ではあるが。


プチカ


 そうこうしながらゆっくり会場に着いたのだが、開演時間は過ぎているのに師匠はまだ来ていないと言う。同じく師匠の弟子だというやたら早口の兄ちゃんと無駄話をしたりして、1時間以上も待ってようやく師匠が登場。湯沢さんがわざわざ私たちを紹介してくれて、楽屋でのリハーサルを見学させてもらう。師匠オニンド・チャタルジー氏はやたらと威圧感のあるお人であった。ザキールみたいな気軽な感じとは対照的な、いかにも先生というたたずまい。たくさんのお弟子さんが取り囲んでいいる。
 しかし、リハーサルがいきなりすごい。めちゃくちゃ早い、しかもパワフル。畳み掛けるようなリズムで窒息しそうになる。湯沢さんを含めたお弟子さんたちはみんな真剣なまなざしで、見つめている。私たちは許可を得たのでずうずうしく写真を撮りまくってしまった。さて、ようやく本番が始まり会場に陣取ったが、師匠が遅れたおかげで演奏時時間が30分しかなかったのだった。それでもすごかった、途中タブラの皮が破けちゃったんだもん。それに朝9時からよる9時まで、一日中古典音楽を聴き続けたので、もう十分ごちそうさま、お腹いっぱいです。


アニンド・チャタルジー


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